もうすぐ公開終了となる『レディプレイヤー1』を今さら観てきました。
見終わった瞬間、スティーブン・スピルバーグ監督に「この映画を作ってくれてありがとう!」と叫びたくなる素晴らしい映画でした。
SNSでは映画内に散りばめられたオマージュの数々に注目が集まっていますが、私は映画オタクでもゲームオタクでもアニメオタクでもないので、そのことについては詳しく解説できません。
この映画が発するメッセージを私なりの切り口でとらえてみたので、そのことについて書きたいと思います。
完全なるネタバレを含みますので、映画を観た方だけ読んで下さい。
もくじ
あらすじ
まずはあらすじをおさらいしておきましょう。
舞台は2045年のアメリカ。現実世界の街は荒廃しています。
人々はVRゲーム『オアシス』の中で理想の生活を送りますが、『オアシス』の創設者であるハリデーが亡くなったことで状況は変わります。
ハリデーは『オアシス』の中に眠る3つの謎を解いて「イースターエッグ」を手にした者に、全財産と『オアシス』の全てを捧げるという遺言をのこしたのです。
その謎に挑む17歳のウェイドが、大企業IOIに邪魔されながらも仲間たちと共に「イースター・エッグ」を手にするまでを描いたストーリーです。
「ゲームの中で3つの謎を解きイースターエッグを手にする」という明確で分かりやすい目標を置き、そこへ向かう途中で繰り広げられる友情や恋愛、葛藤を面白く描いているのでとても見ごたえがあります。
その上アクションシーンも満載でオマージュも盛りだくさんだなんて……。1秒も飽きない、ずっと楽しい、そんな映画ですね!
映画全体で描かれる明確なメッセージ
この映画を最後まで観ると明確なメッセージを受け取ることができます。
それは終盤のシーンでイースターエッグを手にしたウェイドに、ハリデーが言ったセリフにこめられています。
「生きていれば辛い事もあるけど、この現実だけがリアルだ」(正確なセリフは忘れましたけど、伝えたいのはこんな感じ)
どんなに技術が進歩して、なんでも願いが叶う非現実の世界が出来ても、そこでは決して得られないモノがある。
だからもっと現実を見るべきだというメッセージが心に響きます。
これは何もVRにどっぷり浸かった27年後に限らず、現代でも十分にあてはまることだと思いました。
スマホやPCとにらめっこする毎日から一歩引いて、自分を取り巻く現実の世界に目を向けてみることが必要だと考えさせられます。
それじゃあ一体、「現実を見る」とはどういうことなのでしょう?
この映画には、単純に「現実を見ろ」というメッセージだけでは終わらない、人間が生きることについてのもっと深いメッセージを感じました。
「イースターエッグ」のもう1つの意味
人間が生きることについてのメッセージを考える前に、3つの謎を解いたものだけが手にする「イースターエッグ」の意味について考えたいと思います。
「イースターエッグ」とはネット用語で「隠しメッセージ」のような意味がありますが、元々はキリスト教がイースター(復活祭)を祝う時に飾りつけする卵のことです。
イースター(復活祭)とは、十字架に掛けられ処刑されたキリストが、数日後に蘇ったことを祝う祭りです。
レディプレイヤー1に出てくる「イースターエッグ」の意味は、隠しメッセージという意味よりもこの復活を祝う卵という意味の方が私はしっくりきました。
数々の映画や小説が地球の近未来を描いていますが、多いのは技術が発展し豊かになった輝かしい未来です。
だけどレディプレイヤー1が描いた未来の街は荒廃し、人々が幸せそうには見えません。
これは、今私たちが失敗に向かって歩んでいることを意味しているように思えます。27年後の未来は半分死んでいるのです。
だから今こそ卵の殻を破って復活しなければいけない。
復活をするためには、やらなければいけないことがある。
そのやらなければいけないことこそ、オアシスに眠る3つの謎なのです。
3つの謎は、人間が人間らしく生きることとは何かを考えさせてくれます。
「生きる」とは?
先に結論から言うと、私はこの映画から「前に進むことや結果を出すことが全てじゃなく、悩みながら全力で生きればそれでいいんだ」というメッセージを感じました。
3つの謎を解くヒントはほとんどハリデー博物館の中にありますが、この博物館で観られるハリデーの過去はとても人間臭いものばかりです。
全世界で愛される仮想現実空間『オアシス』の開発者とは思えない、ハリデーの悩みや葛藤が見られます。
そしてその1つ1つが、人間が人間らしく生きることとは何かを教えてくれているように感じます。
1つ目の謎
1つ目の謎を解くヒントは、過去にハリデーとオグが『オアシス』のルールを作るか作らないかで対立している場面の中にあります。
この時ハリデーは、自分の作った『オアシス』が取り返しのつかないスピードで拡大していってることに戸惑いを感じています。
そしてこの会話の中にある「ときにはビルとテッドのように後ろへ戻れ」というセリフが謎の解明につながるわけですが、このセリフには「後退しろ」という明確なメッセージが含まれています。
人々は前に前に進みたがるものですが、そんなに頑張って進まなくてもいいんだと、そんなメッセージを感じませんか?
争い合って、潰し合って、ティラノサウルスの襲撃をなんとか交わして進んでも、ゴール寸前のキングコングにまた潰される。
そんな「前進」よりもっと大切なことがあるんです。そもそもそんなに前進してどこに向かいたいのか?
イースターエッグは復活を意味すると書きましたが、復活するには1度リセットすることが必要ですよね。
立ち止まって過去を振り返り、スマホもネットもなかった頃に心を揺さぶられた様々な経験を思い出そうという気になりました。
2つ目の謎
2つ目の謎は、過去のハリデーとオグが恋バナをしている場面にあります。
映画も中盤になって『オアシス』の爽快な映像に慣れてくると、オフィスの一角で繰り広げられるささやかな恋バナには違和感さえ覚えます。
逆に言えば、恋バナのような人間臭い行動が珍しく思えてしまうほど、27年後の未来に人間らしさを感じないのです。
そしてここでの会話から得られるカギは「後悔」です。
好きな人とキスできなかった後悔。
終盤では、ハリデーが一番後悔していたのは親友と決別したことだというセリフも出てきます。
ハリデーは『オアシス』の創設者として巨万の富と名声を得ますが、そんな栄光の陰で小さな後悔が一生彼を苦しめたのです。
ここにもまた、生きる上で本当に大切なこととは何かを解くヒントがこめられています。
3つ目の謎
3つ目の謎はハリデーが好きだった80年代のゲームの中にあります。この謎こそ明確なメッセージを伝えています。
「クリアしなくていい。迷路の中でドットを見つけるんだ」
世界1を目指す大企業IOIはゲームをクリアすることしか考えていませんが、クリアする必要なんてないのです。
大切なことは迷路の中にある。道の途中で見つけるモノだと教えてくれています。
結果を出すこと、前に進むこと、成功すること、それだけがすべてじゃない。人間らしく悩みながら一生懸命生きていれば、迷路の途中で必ず大切なモノが見つかる。
この3つの謎を通して「立派じゃなくていい。君は君でいいんだ!!!」という私なりのメッセージを受け取りました。
まとめ
この映画は、「現実を見ろ」というメッセージと共に、不器用に生きるすべての人に「悩んでもいい。前に進めなくてもいい。だけど後悔はするな!」というエールを送っています。
時代が変わり、生き方の選択肢も増えた分、何者にもなれない人は苦しみます。
ネットやメディアで何か大きなことを成し遂げた「すごい人」の情報を簡単に見ることができるので、何も成し遂げていない自分を責めたくもなります。
だけど人間らしく悩み、苦しみ、心を揺さぶられながら自分なりの幸せを見つけることができれば、それでよくないですか?むしろ、それがよくないですか?
何かを目指さなければいけないような気がして必死で生きてたけど、私は一体どこに向かってたんだっけ?
そう思ったら一度立ち止まり、くるっと後ろを振り返ってみたらいいのかもしれません。
見落としていた大切なことに気づくはずです。カッコイイことじゃなくても、それがその人の生き方だったのです。
※この写真は5年前、マダムタッソーで撮ったスピルバーグ監督(の蝋人形)とのツーショットです笑